5月7日。
この日は夜遅くまでミクシィをチェックしていたが、鉄さんから返事が来ることはなかった。
まだ咳がとまらず苦しいんだろう。私には祈ることしかできなかった。
5月8日。
ようやく鉄さんから返事が来た。
「ケンタさん、詳しくありがとうございます!
咳はなんとか止まっています。
ただ咳や腹痛の原因は胸水と腹水ではないかと思います。
食べていないし体も動かしていないので腕や足が細くなり肋骨も相当浮き出ているのに体重が病気前と変わらないのはおかしいです。
また舌にも変な潰瘍のようなものが出来ました。
不安も襲ってきていますが、
明日から腹水や胸水の手当をする予定です。
フユさんの祈りもお風呂に入った時にしか出来ていませんが『フユさんは回復します!ありがとうございます』と祈っています」
返事が来たことにまず安心した。ただ、咳が止まったのは良かったが、彼の体に何やら異変が起きているようだ。決して快方に向かってるとはいえない。
でも、そんな状況でも他人のために祈れるのはさすがだ。私が頼んだことはいえ、なかなかできることではないと思う。
他人の幸せを祈る人はきっと幸せになるはずだ。鉄さんには言わなかったが、そういう思いもあってフユさんのための祈りをお願いした部分もある。
返事を書こうとして、手をとめた。ふと思い出したのだ。腹水に効く治療法のことを。これで、鉄さんに会いに行くのに18日まで待たなくても済む。
「そうですか。咳が止まったのは良かったです。
でも、確かに体重が変わらないのはおかしいですね。
島野先生に相談してみた方がいいような気がします。
とにかく、回復を祈ります。
鉄さんもきっと回復しますよ。
ところで、私の姉はテルミーという温熱療法の資格を持ってまして、私の家にもそのための器具や材料があります。
http://www.ito-thermie.or.jp/remedy/
結構いろんなものに効きます。姉も子宮筋腫やいろんな成人病の方を治してました。
ただ、ホームページを見るとわかりますが、薬草の線香を燃やすので煙が出ます。
だから、換気扇回さないと、匂いや煙が一時的に部屋にたまります。
それでも構わなければ、土、日にお伺いしてちょこっと出来ますよ。一回で治るとかそんなものではないですが、温めるだけでも気持ちいいと思います。
私も昔腰痛治療でよくやってもらいました。
私は資格を持ってませんが、家庭療法なので、妻も私もよく子供にやっていました。気持ちいいので、寝る前にせがまれたりもしてました。最近は全然やってなかったですが。
試しに一度どうですか? 別に入会とか販売とか購入とか一切必要ないですから安心してください。
そんなに長い時間はできませんけど。今度の土曜は何時でも大丈夫です。
でも、これ以上いろんなこと増やしたくないと思いますので、無理はしないでください。ただ、植物の力の一つだなと思ったので」
「島野先生にもお腹の痛みは以前から相談しているのですが、わからないそうです(-。-;
先生も万能と言うわけではありません^^;
唐胡麻と彼岸根というものを使った手当で胸水や腹水がとれるらしいです。
近所の漢方薬局でネットと変わらない値段で買えるので明日の午前中に入荷されるらしいので買いに行こうと思っています。
ケンタさんさえ良ければテルミーお願いします!
僕もビワ温灸器と言うもので手当をしています!
ところでフユさんの症状は佐村河内守さんという耳の聞こえない作曲家の方のそれと似ていますね!
耳が聞こえないと耳鳴りが酷いらしく起き上がれないらしいです。
薬を15種類飲んでいますが副作用が強く杖なしでは歩けないほどでした。
週の半分は薬抜きの為に悶絶うっていますが、奥さんのサポートなしでは・・・・・・。そんなことを考えながらフユさんのことを思うと自分は恵まれ過ぎています。
先ほど妻と長女にもお祈りをお願いしました!
忘れっぽい人達なので当てには出来ませんがフユさんのことをよくわからない今の僕にはこのくらいしか出来ませんが精一杯祈らせて頂きます!
18日ですが11時なら洗濯も終わっているらしいのでOKです!」
5月9日。
鉄さんからの返事は昨日の夜遅い時間だったので、私がメッセージに気づいたのはこの日の朝だった。
奥さんや娘さんにまでフユさんへの祈りを求めてたなんて、涙が出そうだ。
でも、18日まで待つことはできない。中旬が危ないというのだ。18日のヒーリング会まで鉄さんが元気でいられるかどうかわからない。とにかく彼のためになにかしたい。祈りしかできないと思っていたが、テルミーならできる。
そこで、再度今度の土曜日の訪問を提案した。
「なるほど、漢方が効けばいいですね。
テルミーですが、11日の土曜日なら午後二時以降にお伺いできますよ。
いかがですか?
フユさんと同じような症状の方がいましたか。
きっとフユさんへの祈りは巡りめぐって鉄さんに還ってくることでしょう。
みんな元気になっていいことだらけですね。
18日は11時過ぎにお伺いします。あまり早すぎるとホカ弁も冷めますしね」
「僕はいつでも大丈夫なのですが、
せっかくのお休みの日を僕の為に2週も時間をとらせてしまうのはとても悪いですよ。
18日に体験的に出来ないでしょうか?
お弁当ですが、聖蹟桜ヶ丘の京王B館1Fにいろいろとあると思いますよ!
駅から川崎街道を東に少し行くと北側にオリジン弁当もあります!
僕達も何か買って食べます(^^)」
彼は気を使ってるんだろうか。でも、嫌だとか勘弁してとか言われない限り、なんとしても彼のもとに行きたい。結果的に役に立たないかもしれないが、何もせずに黙って18日を待つのは嫌だった。いや、恐かったのかもしれない。私はあきらめずにプッシュし続けた。
「18日だとほとんど何もできないと思います。
11日の午後なんですが、妻は長男の授業参観なので、午前中に買い物や図書館に行く予定です。ですから、午後は問題ないです。夕方には帰りますし、鉄さんさえ良ければ問題ないですよ。
18日はオリジン弁当買っていきますね」
鉄さんからの返事を待っていると、ランランさんからメッセージが来た。
ヘミシンクのCDを二つ鉄さんにプレゼントしようと思ってるそうで、持ってなければ私の分もコピーします、とのこと。妻に確認するとウチにあるものだったので、感謝の気持ちだけ伝えて、すぐに鉄さんに確認メッセージを送った。
「『チャクラ・ジャーニー』と『ザ・リターン』持ってますか?
持ってなければ、ランランさんがコピーして渡したいそうです」
「ランランさんから先程メッセがありました!
コピーしてくださるそうです(^^)
ありがとうございます!」
鉄さんからの返事の前に、ランランさんからは既に鉄さんには確認済みだと返事が来ていた。てっきりまだ確認してないものと思い込んでいて余計なメッセージのやりとりをしてしまった。早とちりはいつになっても直らない。
それから、またテルミーの訪問日の話題に戻した。
「ところで、11日はどうします?」
「ケンタさんさえ良ければお願いしますm(_ _)m
今日は少し凹んでいて妻にも愚痴を言ってしまいました(-。-;
僕はケンタさんに会うのが楽しみなんです。
ワガママをお許しくださいm(_ _)m」
それは違う。私が強引に持ちかけた話で彼のわがままではない。なんにせよ、本当に嬉しい限りだ。ただ遠慮してただけだとわかって。私だって鉄さんに会うのはいつだって楽しみだ。彼とは気も合うし、音楽など共通の話題も多いからだ。
「じゃぁ、二時過ぎになると思いますが、お伺いしますね。
ちなみに、私が行ける時に、行きたいから行くんで、鉄さんのわがままではないですよ。
タイミングがあっただけです。では楽しみにしてますね」
今度はカイトさんにメッセージを送った。
「今度の土曜日の午後、鉄さんとこに行きます。
どうも腹水や胸水がたまってるようです。
やせてきてるのに体重が変わらないそうです。
カイトさんは厳しいですよね。
ただ、もし、空いてたら一緒にどうかと思いまして」
「ケンタさん、メッセージ本当にありがとうございます!
鉄さんの腹水や胸水が、一切無くなり最高最善の状態であるように、さらに強い祈りを送ります。
土曜日は連休明けの休日出勤でどうしても行くことが出来ませんが、俺の気持ちはケンタさんと共に鉄さんの所へと行ってます。土曜日の午後はケンタさんの横にいるつもりで、鉄さんの胸や腹に向けて強い祈りを送ります」
カイトさんは18日のヒーリング会には奥さんの検診で来れない。奥さんが身重だから厳しいかもしれないが、その前の週ならと思ったのだ。でも、仕事じゃ仕方ない。ただ、カイトさんに祈ってもらえるのは心強い。
本当は他の人にも鉄さんの状態を伝えてさらに祈って欲しかったが、そんな日記はもう書きたくても書けなかった。
それから姉に電話した。
「友達がガンで腹水がたまってるみたいなんだけど、テルミーで腹水がとれるって言ってたよね」
「できないことはないけど、10日くらい続けて毎日じっくりやらないと難しいよ」
そうなんだ・・・・・・ちょっと考えが甘かった。仕事があると毎日は厳しい。夜は鉄さんの家族もいるし、さすがに断られるだろう。しかも私はここ数年テルミーの道具を触ってもいない。ちゃんとできるかどうかってとこだ。ちょこっとやったぐらいじゃ気休めにしかならないだろう。それでも鉄さんのためにできるだけのことはしたかった。とりあえず二日後だ。私は器具をクローゼットから取りだし、準備を始めた。
5月11日。
2時ちょうどにいつもの公園の駐車場に着いた。施術道具一式が入った袋を持って鉄さんちに向かう。
ピンポーン。
インターフォンの向こうから、はぁい、という声がして、ドアが開いた。
「ケンタさんだ」
次女のまいちゃんが声をあげる。
まだ幼稚園の女の子。すっかり顔と名前を覚えられたようだ。
「こんにちは」
奥さんとまいちゃんに挨拶して中へ入る。
鉄さんはいつもの定位置である、ソファの角に座っていた。
私の顔を見るなり鉄さんは、すみません、と申し訳なさそうにいった。
「いえいえ、久し振りでちゃんとできるかわかりませんから、今日はお試しって感じで。しかし、腹水がたまってるとか実感はあるんですか?」
「いや、まだそこまではないんですけど、あまり食べてなくて確実にやせてるのに、体重が変らないんで、そうじゃないかと──」
「そうですか」
「腹水を取るっていう治療法が昔からあるみたいで、唐胡麻と彼岸根をすりつぶして足の裏に貼るんですよ。それを近所の薬局で買った時、そこの薬剤師さんと話したんですけど、漢方薬にもそういった作用の薬はあるらしいんです。それで、ちょっといろいろ聞かれて、軽く診察してもらって、私に合う漢方を選んで見積を出してもらいました」
「漢方は病名じゃなくてその人の状態をみて処方するのが本来なんで、難しいんですが、的確に処方できれば結構劇的に効くことはありますよ。私は昔漢方薬メーカーにいたことあるんで、多少は知ってます。ただ、なかなか1回でそういう処方できる人はいないんで、様子見て処方を変えたりすることが多いようですね」
「ケンタさん漢方薬メーカーにいたんですか」
「若い頃、4年ほどしかいませんでしたけどね」
「でも、さすが詳しいですね。その薬剤師はわりと若いんですけど、かなり勉強してるようで、僕が飲んでる青汁を持ってきてって言われて次の日持ってったら、その中に気分を抑圧する作用の生薬が入ってるので、やめた方がいいと言われたんです。実は最近気分が落ち込んでたんですが、よく考えたら新しい青汁を飲み始めてからなんですよ。で、前のやつにはその生薬は入ってないんですよ」
「ほう、その薬剤師は信用できそうですね」
「だから、漢方薬も飲もうかと思うんですけど、量をどれくらいで注文しようかと悩んでるんですよ」
「漢方は薬なんで、うまい、まずいじゃないんですが、飲みやすいかどうかは判定基準になります。自分にあっていれば他の人が苦いと感じても飲みやすかったりしますね。だから、とりあえず三日分とか1週間分とかで処方してもらえるなら、それで試してみた方がいいと思います。効果みるなら2週間分ってとこですかね」
「なるほど、とりあえず三日分とかできるか、ちょっと聞いてみますよ」
「しかし、青汁はどうして変えたんですか?」
「いや、これが、勝手に新製品だと送ってきたんですよ、桜田さんが。お金は払わなきゃいけないんですけど」
「なんですか、それ。普通確認してからか、試供品送ってからでしょ」
「ですよねぇ。今までも桜田さんから買ってましたけど、おかげで気分は落ち込むし、いやになっちゃいました。しかも、この件とは関係なく、前回訪問時の話でプルトップさんから連絡がきて、『桜田さんは話が上手くないないから誤解してる。いい人なんで、もう一度お伺いして誤解を解きたい』って言ってくるし。こっちはもう話聞きたくないのに、急にやって来るんじゃないかと、それが今一番のストレスです」
「はっきり断ったらいいんじゃないですか?」
「断ってるんですよ。でも、しつこくメールが来るんです。最近は返事もしてませんけど」
「なら、もう来ないでしょ。気にしないことです。忘れましょう。大丈夫ですよ」
わたしにはわかる、とかいってる霊能者でも、相手の気持ちや考えがいつもわかるとは限らない。
霊能者の言葉だからって盲信することはない。神でもない限り、なんでもわかる人間などいないのだ。人に見えないものが見え、聞こえない声が聞こえることと、正しい言動ができることはあまり関係ない。
ちなみに、非物質存在の話でも同じだ。受け取る人間側の問題かもしれないが、やはり間違ってる場合もある。いろんな方のガイド拝見の記事を読んできたが、クライアントに確認して常に100%当ててるケースはあまり見られない。
どっちにしても参考程度にとどめるべきだ。
お茶を飲みながらラーメンやソーセージ、カレーなどの食べ物の話や、他にもいろんな話をしてお互い楽しい時間を過ごしていたが、気づくともう三時前だった。
「もうこんな時間だ。じゃぁ、そろそろやりましょうか」
「そうですね」私の言葉に、鉄さんは布団の敷かれた隣の部屋をちらっと見た。「じゃぁ、そっちの部屋でお願いします」
奥さんと私が両側から支えながらゆっくり移動し、布団に鉄さんを横たわらせた。
テルミーとは、医者で鍼灸師でもあった伊藤博士が、1920年頃に完成させた温熱療法で、正式にはイトオテルミー療法という。薬草をブレンドした鉛筆より若干細い大きさの線香に火をつけ、万年筆大の太さの金属製の筒に入れて体にこするように熱を入れていくものだ。
二本の筒を使うので、初心者は強く握りすぎて疲れたり、弱い火でしか施術できなかったりする。とにかく練習が必要だ。
私も久し振りだったので、最初はあまり線香の火を強くできなかった。
ろうそくに火をつけ、二本の線香をあぶり、1センチほど赤くする。それでも煙は結構出る。換気扇を回してもらっていたが、なんと火災報知器が反応してサイレンが鳴り出した。
ブーブーブーブー。かなり大きな音。
「うわっ、どうしよう」私は慌てた。
「それ外してください」鉄さんが天井を指差す。
そこへ手を伸ばし、丸い部分を回して外すと音は消えた。
私は冷や汗をかきながら奥さんに弁解した。「すみません。ウチでは鳴ったことなかったんで大丈夫だと思ったんですが」
施術は本来足裏から上までずっと上がっていくのだが、お試しなので、足裏のあと、背中とお腹くらいしかやらなかった。でも結果的にそれで良かった。
火が弱いせいもあり、熱を入れるのに時間がかかり、あっという間に5時になっていた。全身やったわけじゃないので、二時間もやっていたとは思わなかった。
もし、足までやっていたら、一番痛いという腰に時間を割けなかっただろう。
ちなみに、この時は腹水がたまってるのかどうか、外からではよくわからなかった。
「本当は最初から長時間やると好転反応が強く出たりするんで、いけないんですが、弱い火だったんで大丈夫だと思います。どうでしたか?」
「いやぁ、温かくてメッチャ気持ち良かったです。まだまだずっとやってもらいたいくらいですよ」
「煙や匂いは気になりませんでした?」
「僕は全然大丈夫ですよ。なっちゃんは?」
「わたしも嫌いじゃないです」
「そうですか。じゃぁ、次回はもう少し短時間で強い火でやるようにしますね。ようやく体が思い出してきました」
ちなみに、テルミーの道具には、素人でもわりと簡単にできるスコープという器具もある。それは5本の線香を鏡のついた陶器のケースにセットしてかざしながら動かすものだ。
今回事前に体を温めるのにそれも使ったので、それだけ簡単に説明して、もし、良かったら使ってください、といって線香とともに置いていくことにした。
二本の管の方は洗ってヤニを落とす必要があるし、素人がいきなり使うのは無理なので持って帰る。
「ありがとうございました」
頭を下げる鉄さんに「また来週来ますね」と笑顔でいった。
玄関にいくと、まいちゃんもやってきて手を振る。「バイバイ」
「バイバイ」私も手をふりかえし、顔をあげて奥さんにいった。「では失礼します」
「ありがとうございました。気を付けて」
あんな小さなかわいい子がいるんだ。元気になってもらわないと。そう思いながら家に帰った。
夕食のあと、家でTVを見ていたら、カレーの話が出てきた。
タイカレーの缶詰は化学調味料無添加で美味しいですよ、と鉄さんに今日話をしたばかりだった。ラーメン好きの鉄さんだが、カレーも大好きだそうだ。
TVではストレスに効くという話だっだので、すぐにメッセージを送った。
「ストレス数値の高いバスの運転手に、カレー1日1回と読書5分を三日続けるとストレス数値がマイナスになるという実験結果をさっきTVで見ました。
読書は漫画でもよく、没頭できればいいそうです。
もしかして見たかもしれませんが、カレーとストレス、ちょっとシンクロだと思いまして」
「え~、やっぱりカレーは良いんですね(^^)
しかし凄いシンクロですね!
試してみます(^O^)/」
このあと、鉄さんはミクシィに私がテルミーしてる写真をアップして、「気持ち良かった」とつぶやいていた。奥さんに写真を撮ってもらっていたのは知っていたが、まさかアップするとは。ちょっと恥ずかしかったが、その後調子良かったということだと思うと嬉しかった。
15回目に鉄さんに会った一日はこうして終わった。
あとは来週のヒーリング会まで元気でいられれば少し安心だ。
なんとか無事に中旬を乗り切れることを願っていた。